世界で巻き起こる「台湾ブーム」
多くの外国人がTaiwanとThailandを混同していた時代、彼らは数少ない先駆者だったが、近年は国際情勢が激変した。新型コロナウイルスの流行で境界線が明らかになり、パンデミック収束後、台湾に対する国際社会の認識と興味は明らかに高まったのである。
台南の地にあって文学推進に注力する台湾文学館も、大きな変化を感じている。文学や出版物は外国人が台湾を知るための重要な媒介だからだ。「この2~3年、海外の大学や図書館、出版社、在外公館などからの協力を求める声が大幅に増えました」と台湾文学館の林巾力館長は語る。
台湾文学館の地下1階の図書室に足を踏み入れると、あふれるほどの蔵書の中、一千冊近い外国語の書籍があるが、それらは世界各国で翻訳された台湾の作品である。
中でも日本語に翻訳された書籍の数は少なくない。台湾と日本の特殊な歴史的関係から、日本では早くから台湾の作品が紹介されてきた。次に多くを占めるのは英語版であり、台湾とアメリカの頻繁な行き来を象徴している。また、近年になって増えてきたのは、台湾と同じように政治的に紆余曲折を経てきたチェコ語版である。
数々の書籍の中に、幾度も出てくる作家の名前がある。先輩世代の白先勇や李昴、中堅の呉明益、紀大偉、夏曼・藍波安(シャマン・ラポガン)、頼香吟、そして若い世代を代表する陳思宏である。それぞれの世代の、さまざまなスタイルやテーマの作品が、外国の読者に台湾の姿を伝えているのだ。
テーマ別にみると、世代を越えてジェンダーを扱う作品が多い。これは台湾のジェンダー平等運動の蓄積と、アジアで初めて同性婚を合法化した国となったことと関わりがあるだろう。甘耀明の小説の和訳で知られる日本の翻訳者--横浜国立大学の白水紀子名誉教授は、かねてよりフェミニズムやLGBT問題などの研究で知られている。白水氏は、台湾文学にはフェミニズムやゲイ、LGBTを扱うものが多いと語る。白先勇の『孽子』や『台北人』、李昴の『殺夫(邦題:夫殺し)』、邱妙津の『鱷魚手記(ある鰐の手記)』、紀大偉の『膜』、陳思宏の『楼上的好人』など多数あり、これが台湾文学にひかれる要因だと語る。
作家別に見ると、テーマの大胆さと文章表現の濃密さで知られる李昴は、早くから世界的に注目されてきた作家の一人だ。その作品『夫殺し』はドイツで5万部も売れている。これに続いて呉明益の『複眼人(複眼人)』『睡眠的航線(眠りの航路)』『天橋上的魔術師(歩道橋の魔術師)』『単車失窃記(自転車泥棒)』『苦雨之地(雨の島)』という長編小説5作品は、これまでに10以上の言語に翻訳され、30万部を売っている。
白水紀子氏によると『歩道橋の魔術師』は2015年に著名翻訳家の天野健太郎氏によって和訳された。『自転車泥棒』は2018年、イギリスのブッカー賞の候補に上がった後、注目が高まり、2021年には『複眼人』『眠りの航路』『雨の島』の3作品の日本語版が出版された。「一人の作家の作品が同じ年に3点も出版されるのは快挙と言えます」と白水氏は言う。
台湾文学館は台湾の文学を国際市場に打ち出そうと努力している。写真は日本語版の台湾中短編小説選集。