マニュアルのないサービス
謝小五は、謝宅を案内するのに毎回1時間をかけ、家屋のさまざまな物語を語る。研き出しの階段のスイカのような赤と緑の配色は祖母のアイディアだったこと。改築後のキッチンは、透明な波板とすだれで自然光を取り入れ、太陽の動きにつれて影が動くこと。また、客間の円卓は重みに耐えられないこと。「子供の頃、父は子供たちがご飯茶碗を手にもって食べるようにしつけるため、テーブル面をネジで強く締め、テーブルを押すと跳ね上がるようにしたのです」と説明する。こうした暮らしの細部が古民家の魅力であり、謝小五の話を通して台南の日常生活がよみがえる。彼は自分の家を宿泊客に提供し、宿泊客にもこの家を「大切に」してほしいと願っており、古民家保存の意識を高めていきたいと考えている。
謝宅での体験は空間だけではない。「おもてなし」も気が利いている。「うちのサービスにはマニュアルがないのです」と言う。「予約の時から、できるだけお客様のニーズを聞き、最適なサービスを心掛けています」
LINEやフェイスブックでの連絡を好まない小五は電話を使う。実際に声を聴いてこそ相手に近づけるからだ。宿泊客が直接謝宅に到着することもない。どこかで待ち合わせし、散歩がてら担当者が周囲の環境を紹介しながら歩いてくる。「だいたい5分ぐらい歩きます。まずお客様にスピードを落としてもらい、『台南の速度』に変えていただくのです」と言う。これは、建物を目印にする台南人の習慣に触れてもらうためで、また担当者も宿泊客の状況を観察できる。この時に、謝宅のサービスはすでに始まっているのだ。謝小五は協力関係にあるタクシーの運転手にも「サービス」に関する講義をする。台南に到着した瞬間からこの土地の良さに触れてもらうのである。
「民宿に泊まるというのは、オーナーのセンスに触れ、その暮らしに参加することでもあります」と台南生まれの謝小五は言う。彼は宿泊客を連れてバスケやスケートボードをしに行ったり、夕日を見に行ったりし、自分の人脈を活かしてお店やスポットを紹介し、店には謝宅のお客に十分サービスしてくれるよう依頼する。こうして短い期間に台南の良さに触れてもらう。
謝宅では心からのサービスをする。「本当のサービスは心に届くものです」と言う。以前、台南で大地震が発生した時、水道管が破裂し、西市場に位置する謝宅でも水が使えなくなった。「謝罪して宿泊料を返却することもできましたが、それでは問題は解決しません。そこで私は人を手配し、3時間かけてリレー式に水を運んで5階のタンクを一杯にし、シャワーを使えるようにしたのです」と言う。宿泊客の身になって考えるのが謝宅のサービスなのである。
謝宅を運営し始めて12年、謝小五は8棟の古民家を次々と改築し、一年間で24ヶ国からのお客をもてなした。「これらの宿泊客は、今では台南に来たら古民家に宿泊するべきだということを知っています」と言う。さらに多くの人に台南を知ってもらうため、今年、謝小五は日本の金沢にも進出し、日本でも謝宅を経営して台南流のおもてなしを広めている。
謝小五は、言葉では表現できない古民家の美を体験してもらいたいと考えている。