産官学と地域が協力
顔能通の積極的な動員で、地域全体が動き始めた。菱の実の季節になると、地域の年配者が殻をむいて天日に干し、それらを集めて窯へと送る。これを何年か続けてきた結果、回収率は6割に達しているという。
菱の殻を炭にする技術を開発した成功大学化学科の特任教授・林弘萍はこう説明する。まず、菱の殻は天日に干して水分含有率を10%まで下げ、それを鉄の桶に入れて1000℃の高温で焼き、30分後に水をかけて急速に温度を下げる。すると淡い赤だった菱の殻が、黒光りする炭になるのである。
林弘萍によると、そのプロセスにはさまざまなポイントがある。焼く時点での菱の殻の水分含有率、鉄の桶に開けた2種類の穴の数、煙突の直径、焼成の時間など、どれも精確に設定されているのである。さまざまな実験を行なって最良の方法を確立するのに一年半の時間を費やしたという。
林弘萍はさらに説明する。菱の殻はリグニン(木質素)を多量に含んでおり、それがバイオチャコールの優れた原料となる。菱殻炭の「比表面積」は1グラムでバスケットボールのコート半分に匹敵し、吸着力が極めて高い。そのため吸湿や消臭の効果が得られるだけでなく、土壌や水質の改善にも利用できる。林弘萍は製品の安全性も重視しており、ダイオキシンや多環芳香族炭化水素の量も検査に送り、いずれも国際基準にかなっているという。
台南官田は菱殻炭で地方創生のモデルケースとなり、もう一つの教育の場ともなっている。成功大学や崑山科技大学、嘉南約理大学など、台南一帯の大学の学生や教員が次々と官田に入り、それぞれのリソースを投入している。学生たちはここで社会サービスを学び、ともに地域発展を推進している。
菱殻炭は暮らしに役立つだけではなく、産業の現場でも多くの応用が可能だ。例えば、顔能通が最初に考えたのは農地の肥料として地力を高められることだ。また養鶏場では菱殻炭を砕いて飼料に加え、鶏の抵抗力を高めている。繊維メーカーも官田を訪れ、汗の吸収や消臭に優れた繊維製品の開発を検討している。
ゴミを価値の高い製品へ変えていく。将来性のあるこの分野は若者を起業へと導き、ビジネスとして成立することが証明された。
郭文毅が自ら描いたチェ・ゲバラの肖像は、これまで貫いてきたイノベーション思考と奮闘の精神を象徴している。
ダムの機能に大きく影響を及ぼす泥や土砂が、改良を経て新たな生命を持つこととなった。
「楽土モルタル」の壁面。流行のインダストリアル・スタイルだ。
「楽土」の熱心なファンである呉立偉は、楽土を用いてさまざまな器を作っている。
台北市大稲埕にある「葉晋発商號」。コンクリート打放し風の壁面には楽土が用いられ、古い家屋が生まれ変わった。
情熱をもって菱殻炭「官田烏金」の焼成技術を開発した林弘萍は、学界から産業へと足を踏み入れた。
菱の実の生産量で全国の7割を占める台南官田では、いたるところに菱田がある。
菱の季節になると家々の前で女性たちが輪になって座り、手際よく菱の殻を剥いていく。
高温で焼かれた菱殻はグラファイトのような化学構造を持ち、金属のように黒光りしている。
菱殻炭は産官学と地域全体を巻き込み、生産から販売まで50人ほどが参加している。
林弘萍が開発した特許取得技術。炎は上方にあり、下の菱殻は「乾留」によって炭となる。